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2025-05-16

華仙の書 Vol.2

☝上記画像をクリックするとpdfファイルを見ることができます。

発行日     : 2024.1.8.
企画・構成   : 角谷敦子  角谷賢二
編集・デザイン : 角谷賢二
発 行     : 国際美術研究所

【角谷華仙のコメント】

  私が最初ミュオグラフィアートプロジェクトへの参加を夫に勧められた時、「アート」いう言葉が私の普段親しんでいる書道とは何か相容れないもののように感じ、ためらいました。しかし、夫があまりにも一生懸命なのを見て、看板くらいなら書けるかなと参加を承諾しました。
  2018年の第1回アート展では、絵画が中心であり、書道作品は私一人だけでした。書道でミュオグラフィをどのように表現するかは非常に難しい課題でした。ミュオグラフィの基礎となるミュオンが宇宙から飛来し、人類のために役立つものだと聞き、最初に「宇宙からの贈物」という言葉を作品として表現することにしました。
  2019年のミュオグラフィアート展では、割り箸で描いた「Muon」と「宇宙からの贈物」の2点を出展しました。2019年の時点では、少しずつミュオンやミュオグラフィに関心を持ち始めながらも、まだ看板字的な役割を意識して書いていました。
  2020年、ミュオグラフィ測定装置と飛来するミュオンを書道の様式に従って描きました。この時の作品は、宇宙の無限を象徴する「無」と、ミュオグラフィ測定装置の形を視覚的に表現した「無」、二つの意味を持つ「無」の中に青白く光るミュオンを配したものです。華仙のミュオグラフィアートとして記念すべき一作目の作品となりました。
 また、2020年には「無音」をテーマに作品を制作しました。無音をローマ字で書くとMUONすなわち英語のミュオンになります。ミュオンが音もなく地球に降り注ぐことにインスピレーションを得て書いた作品で、草書体の「無音」の中を通過するミュオンを青色の顔彩で表現したパネル作品です。これは2020年の図録には間に合いませんでしたが、グランフロント大阪での展示会でインタビューを受けた時に紹介させていただいた思い出深い作品です。

 2021年、東京大学の田中宏幸先生はミュオンを利用した海底の位置決めシステムであるmuPS (Muometric Positioning System) を発明されました。私はこの画期的な発明に心動かされ、先生のmuPSの原理図を見ながら先生の理論をできる限り忠実に表現する書道作品を制作することにしました。最初に「ミュオン」を表す「無音」という文字を行書で大きく書きました。「音」の長い横線は海面、音の日の部分は深海に沈めた装置、金色の粒は直線的に降り注ぐミュオンを表現しています。そして、海面に当たるところにMuometoric positioning systemと英語で書き入れました。この作品は2021年の図録に収められ、8月のミュオグラフィアート展の開催を待つばかりでしたが、残念ながらコロナ騒動で中止になり、翌2022年3月、「リベンジミュオグラフィアート展2021」で展示されました。
 2023年、田中宏幸先生は極めて高精度な時刻同期技術を発明されました。私はミュオンがエアーシャワー(多重ミュー粒子)として発散し、各地点の時刻を同期できるという時刻同期の考え方に興味を持ち、それをテーマに作品制作しようと思いました。田中先生が書かれたエアーシャワーの図を見ながら書いているうちにその枝分かれしていく形が古代文字の「時」という字に似ているように感じました。古代から地球上に降り注いでいるミュオン、古代文字の「時」にエアーシャワーとしてのミュオンが降り注いでいる構図が頭に浮かび、それを紙に書いて糊でキャンバスに貼り付けました。 
 2024年には、田中宏幸先生は時刻同期技術をさらに発展させたCosmic Coding and Transfer (COSMOCAT)技術という世界で最もセキュリティの高いパスワード技術を発明されました。私は「鍵」という文字でスマートビルディングを表現し、COSMOCATを説明する作品に仕上げました。
 このように、私はミュオグラフィプロジェクトの一員として最先端技術をアートで表現する試みに尽力してきました。本作品集にはこれらの作品を収録しています。
 私を含め一人でも多くの人がアートを通して最先端技術に関心と興味を持つことができますように、さらには、いつの日かその発展に寄与する人材が育ちますように願っています。

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