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2026-08-18

記念講演「造山古墳群伝承物語と最先端科学ミュオグラフィ」のまとめ小論文

 岡山歴史研究会主催の定期総会が岡山県立図書館にて2026年4月29日に開催された。その中で記念講演として角谷賢二が「造山古墳群伝承物語と最先端科学ミュオグラフィ」と題しての記念講演を行った。その時の司会濱手英之事務局次長が講演内容を的確にまとめた小論文が冊子「歴研おかやま」の第45号(2026年7月24日発行)に掲載された。溝手氏のご厚意で、その原稿を本ホームページに掲載させていただくことにする。

本講演のまとめ:岡山歴史研究会事務局次長 濱手英之氏

【以下濱手英之氏のまとめ】

講演:国際美術研究所所長、国際ミュオグラフィ研究所所員、高分子学会フェロー
   角谷賢二氏


 角谷賢二氏は岡山市の出身で、総社高校を経て関西学院大学理学部および大学院理学研究科を修了された。日立マクセル株式会社入社後、神戸大学工学部で理学博士号を取得。その後、関西大学で学長室シニアURA、客員教授などを歴任され、現在に至っている。

講演の様子

 高松塚古墳の壁画を発見した関西大学に勤めていた関係もあり、古墳研究に興味を持ってその知識を深められた。そして、実家から1kmほどにある造山古墳群のミュオグラフィによる調査に関わることとなり、その過程で地元住民や研究者への取材を重ねて『造山古墳群伝承物語』をまとめられた。

『造山古墳群伝承物語』作成の経緯

 2021年4月より、東京大学と関西大学の共同研究として、造山古墳でミュオグラフィ測定が始まった。その事がきっかけで、岡山大学文学部 清家章教授と交流を持ち始め、その時に、最先端科学も必要だが、地元の古老の記憶にも多くの情報が眠っているのではないか、それをインタビューで掘り起こせば重要な情報が残せるのではないかということで意見が一致した。そして、造山古墳蘇生会会長 定廣好和氏、また以前より造山古墳の発掘を手掛けている岡山市教育委員会の安川満氏等、賛同メンバーが集まった。

 手法としては、古老へのインタビューをビデオに残し、それを冊子に落とし込んでいく作業である。地元の古老の方々から非常に興味深い話をたくさん聞いたが、どうしても記憶が曖昧なところとか不鮮明な部分もあった。そこで、岡山市教育委員会埋蔵文化財センターの記録を頼ることになった。また、百年ほど前に活躍した研究者、和田千吉氏、永山卯三郎氏の記録も参考にした。考えてみれば、ほんの百年ほど前まで造山古墳は古墳なのかどうかさえも不明だったわけである。

 造山古墳は全国第4位の規模を誇る前方後円墳であり、その培塚を含めた古墳群は吉備国の歴史を知るうえで極めて重要な存在である。講演では、かつて古墳の石室が偶然発見された経緯や、その際に副葬品が持ち出されたこと、また多く存在した石材や埴輪等の状況、行方等、地元に伝わる貴重な証言が紹介された。いくつかトピックを取り上げる。

・造山古墳前方部にある舟形石棺。阿蘇の溶結凝灰岩であるが、どの古墳から出たのかは不明。同じく、前方部荒神社北側横には石棺の蓋があり、直弧文の線刻と朱の赤が残る。

・近くの民家の庭に埋めてある、露出部が2×1.25mの巨石。この付近の石ではなく、大正時代に搬入。

・民家の石垣として積まれていた沢山の石材。暖炉として使われていた埴輪。

・古墳の上でごぼうを植えると50㎝位で先端が曲がってしまう不思議な話。それにより天井石がその場所にあることがわかった。

・巨大な天井石を壊すために四国から石工が呼ばれ、夜な夜な巨石を割った。石の隙間から長い棒を入れるが、底には届かなかった。

・石室の中には水が溜まっており何度も抜いたり溜まったりを繰り返した。それにより、内部の直弧文などの破損が進んだ。三笠宮殿下も見学にこられ、この時も水を抜いて殿下も中に入られた。水抜きには、初期はポンプ、途中からサイフォンを使用。

・古地図の字名や航空写真等により、削られて無くなった古墳や、その土で埋められたと伝わる環濠等の話。民家の地盤沈下と周濠の存在の話。

 現在では考古学や自然科学の発展により、古代の人々の暮らしや文化交流の実態が少しずつ明らかになっている。そのような中、重要な遺跡が盗掘や乱掘の被害にあい、失われたことは誠に残念である。一方で近年は古墳への関心も高まり、造山古墳周辺の保存・整備も進められている。今後さらなる研究の進展が期待される。

ミュオグラフィによる古墳研究の新展

 ミュオグラフィは、宇宙線によって生成される素粒子ミューオンを利用して大型構造物の内部を非破壊で透視することもできる技術である。近年では、火山観測や考古学調査への応用が進められており、特にエジプトのピラミッド内部構造の解明に関する研究が報道されたことで、その存在が一般に知られるようになった。

 物質を透過するという点ではX線やニュートリノと共通するが、それぞれ透過能力やその観測に向いている対象が異なる。X線は人体や比較的小規模な対象物の観察に適し、ニュートリノは地球規模の観測も考えられる。一方、ミューオンはその中間的な特性を持ち、大型建造物や火山、古墳などの内部構造調査に適した素粒子として期待されている。また近年では、透視技術だけでなく位置測定やナビゲーション、時刻同期、電子通信、暗号技術等への応用研究も進められている。

ミュオグラフィアートを通じた市民活動

 角谷氏は、この最先端科学を専門家だけのものに留めることなく、市民にも広く理解してもらうことを目的として「ミュオグラフィアート」に取り組まれている。科学と芸術を融合させる独創的な試みとして国内外で高い評価を得ている。

 2024年7月には、先端科学分野であるミュオグラフィを、アートを通じて国内外に広く発信する活動に長年尽力した功績が認められ、「ハンガリー国騎士十字功労勲章(Knight’s Cross of the Order of Merit of Hungary)」を受章されている。

終わりに

 長年にわたり最先端科学の研究開発に携わる一方で、郷土の歴史や文化の継承にも尽力されている角谷賢二氏の活動は、学術研究の枠を超えた社会貢献の好例といえる。今回の講演は、地域史研究と自然科学との新たな接点を示す大変示唆に富んだ内容であった。今後は考古学においても、最先端科学と伝承等が融合した複合的研究が有効になってくることは間違いないだろう。

※『造山古墳群伝承物語』は造山古墳ビジターセンターで販売され、岡山大学出版会からも刊行されている。また、YouTubeでもインタビューの様子等が公開されている。(ユーチューブ 造山古墳 角谷 等で検索してください)

                               (濱手英之)

 

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